Barry Foy ”Field Guide for the Irish Music Session”を読んで

日本で、とあるアイルランド音楽のセッションに関する書物が一時期アイルランド音楽演奏家の界隈で話題になりました。ある方はよくできた本だという一方で、ある方は冗談として読むにはいいが間に受けてはいけない本だ、誤解を招く、と批判していました。


私がアイルランドのUCDに留学していた際、翻訳前の原著を発見したので、今回はレビューしたいと思います。


この本はアメリカのフィラデルフィア出身のBarry Foy氏が書いた、アイリッシュセッションの指南書となっています。ステレオタイプですが、アメリカの方が書いたというのもあり、各所にジョークがちりばめられていました(残念なことに、いくつかは僕の英語力、およびユーモアセンスでは分からなかったのですが…)


まず先に感想を述べておくと、私は結構良い本だと感じました。具体的な曲名が出てきたりするので右も左も分からない方にはいささか不親切かもしれませんが、ある程度曲を練習して、じゃあ通いたい!という人には本当にちょうど良いレベルの本なのではないでしょうか。

なぜならこの本はセッションとはなんたるか、どう入るかを書くと同時に、セッションのあり方についても言及しており、それが非常に的を得ているためです。

いくつか、良いと感じた内容を具体的に引用してみたいとおもいます。


"good session is not a free for all.

There's more discipline to it than its  apparent casualness andwspontaneity would suggest.

That discipline arises naturally, unforced,out of the musicians' respect for the music and their thorough familiarity with it." p.68


自由なセッションこそが良いセッション、という考え方に筆者は問いを投げかけています。そしてそれは誰かに強制されず、音楽へのリスペクトから生まれるものなのだと言うことです。逆に言えばセッションごとにそれぞれの規律があってもいいと思いますし、他の人に強制されることではないですが、少なくとも一つのセッションが成り立っていれば、そのセッションには目に見えない音楽へのリスペクト故の決まりがあると言うことです。


"To think of sessions as strictly musical events it to harbor a misunderstanding. They are also social events.The musician who pours his hole heart into the playing but ignores the social giveandtake is not only a bore to play with, he also doesn't do the music any favors" p.46


これもかなり好きな一節なのですが、アイリッシュセッションはただの音楽イベントではなく、社交的なイベントなのだと述べています。そして、音楽イベントと勘違いしひたすら曲を出し続けていくのは御門違いだと。

これは本当な僕もその通りだと思っていたらいいセッションこそ会話が多いと感じています。そのやり取りの中で音楽の歴史やトリビアを習ったりもしますしね。

とはいいつつも、僕はアイルランドでは皆の会話にあまりついていけず、早く曲始まれと心で念じていたこともあったわけですが…。


こうしたセッションのあり方に関する考えが、僕にはぴったりあったので、かなり楽しく読めました。逆に言えばセッションに対する考えが違う人には楽しみ辛いのかもしれません。


さて、この本はセッションに使われる楽器や、チューンの種類とそれを出す速度や頻度、そしてダンスや歌に関する記述があるなど、網羅的にセッションに関する事柄を取り扱っているのも大きな特徴です。

例えば、歌に関しては次のような記述があります。


"The inclusion of singing, especially unaccompanied singing, rounds out an evening of traditional music in a heartwarming way" p.60


歌が大好きな僕からすればよくぞ書いてくれた!と言う感じです。

また、うまい演奏にわざとヤジを飛ばすアイリッシュについてなんて記述もあり、セッションの雰囲気をできる限りわかりやすく描写してくれているのも特徴です。


セッションにこれから入ろう!と思ってる人には、ぜひ必読の一冊となっているとは思います。

一方で、あまりこの本を読んで辟易する必要もありません。この本には次のような記述があります。


"the better players aren't there to shame you,,,They, like you, are simply out for a tune and a pint" p.62


僕もかつては全く演奏には入れず、自分たちだけで楽しみやがって…と逆恨みしたこともありました(今だからこそ言えることです笑)。しかし、皆いつも通り音楽を楽しんでいるのです。だからあなたもその雰囲気に乗り、分からない曲はギネスでも飲みながらのんびり聞いて、わかる曲があれば入ってみたら良いと思います。間違ったらどうしようとか、あまり気にする必要はありません。


"In sum. considering how many things can go wrong, it's a wonder the music is ever good" p.67


なのですから。



…でも、1人で曲出し続けないとか、人が話したり弾いてる横で別の曲練習したりしないとか、サックスで爆音ならしたりとか、そういうのはよそう!前述の通り、セッションには音楽リスペクト故に、意外と決まりはあるのだ!